怪異談 生きてゐる小平次 (1982)
「東海道四谷怪談」「地獄(1960)」など、怪談映画の名手・中川信夫監督が、鈴木泉三郎の傑作戯曲「生きてゐる小平次」の再映画化に挑戦。「赫い髪の女」ほか、日活ロマンポルノ屈指の名女優・宮下順子。「夏の妹」の石橋正次。そして、日本舞踊・藤間流の名門一家に生まれた藤間文彦。この3人が、幼なじみの男女3人に扮し、三角関係のもつれによる濃厚で息詰まる愛憎劇を展開。80分にも満たない簡素な低予算映画ながら、怪奇な雰囲気が全編に充満。1984年に79歳でこの世を去る中川監督の遺作となった。 しがない役者の小平次、囃子方の太九郎、おちかの男女3人は、仲むつまじく育った幼なじみ。いったんは金持ちの家に嫁いだものの離婚したおちかに、彼女に惚れる小平次と太九郎はともに結婚を申し込み、おちかは太九郎の恋女房に。しかし小平次はおちかを今もなお諦めきれずにいた。ある日、太九郎を釣りに誘った小平次は、おちかを俺にくれと懇願するが、怒った太九郎は小平次を沼に突き落とし、小平次は死んだと思われたが……。
キャスト
豆知識
『怪異談 生きてゐる小平次』 は、1982年(昭和57年)9月4日公開の日本映画。製作は磯田事務所と日本アート・シアター・ギルド、配給は日本アート・シアター・ギルド。監督は中川信夫。上映時間は78分。
製作
1981年の始めに製作費1,000万映画で有名なATGが、「今、1000万円で何が可能か?」を探るべく、「もう一度1,000万映画」というコンセプトで、1981年の1,000万映画として、『ガキ帝国』『九月の冗談クラブバンド』『近頃なぜかチャールストン』『KID NAPING BLUES(誘拐の唄)』(全て発表時のタイトル)とともに5本のうちの1本として製作発表があった。このとき発表されたタイトルは『生きてゐる小平次』で「2人の男と1人の女だけで構成される怪奇譚」と説明があった。1981年晩秋の発表では「3人と一匹しか登場しない」と説明があった。また5本はいずれも東京ではシネマ・プラセットで公開すると発表された。
1980年(昭和55年)、磯田啓二率いる独立プロダクション・磯田事務所がATGと提携作品を作ることになり、当時怪談映画の名手として知られていたものの、すでに第一線を退いていた中川信夫に監督を依頼した。そうしたところ、中川が「やりたい」と出してきたのがこの原作だった。
翌1981年(昭和56年)9月22日に製作発表会見が東宝本社会議室で行われた。報道陣を驚かせたのは御年76歳中川信夫の13年ぶりのメガホン。さらに驚かせたのは中川の矍鑠ぶりで、下駄ばきで入館し、東宝屋上のお稲荷さんに供えてあったワンカップ酒を三杯ペロリ。当時の映画界はジャリタレ(アイドル映画)報道に明け暮れていたため、中川と近い世代の記者たちはこの気骨ある明治の映画人にビックリし、記事にした。
撮影は1981年(昭和56年)、京都の映像京都などの協力を得て、大映京都撮影所にメインのセットを組み、ロケーションを織り交ぜて行われた。製作期間は7日間であった。「1千万円」という限られた予算の中で、中川は旧映画版以上に俳優をしぼりこみ、主演の3人以外はいっさい登場しない三角関係の心理ドラマを作り上げた。鈴木泉三郎は生前「『小平次』は怪談ではない」と語っており、中川とスタッフは、「死んでいないかも知れないし死んで幽霊になっているのかも知れない」という「幽明の境」を漂うような世界を描くために、軽量の16ミリカメラのアリフレックスを使用しながらも一切動かさないフィックス・ショットで全編を撮影し、過去の怪談映画で見せた躍動感あふれる移動映像は一切排した。また、そこには「低予算という逆境に(中略)自らの気持ちを引き締めるため」という中川の気概もこめられているという。
本作は16mmフィルムで撮影し35mmフィルムにダイレクトにブローアップして劇場公開された。当時16ミリから35ミリへのブローアップをするには、いったん16ミリのネガフィルムを35ミリのネガフィルムにブローアップしなければならなかったが、本作ではその工程を省き、16ミリネガから直接35ミリプリントを焼いている。これは発想的には、スーパー16(16ミリフィルム#スーパー16)のさきがけを行ったともいえる。この工程省略によって、ネガ引き伸ばしの際にもたらされる画面が引き伸ばされたような不自然感や粒子の粗さなどが解消され、よりクリアな映像が得られることになった。カラー作品では初の試みとされている。
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