疵 (1988)
生涯一度も銃や刃物を持たず、常に相手を素手で叩きのめして、ヤクザの間で“死神”と恐れられた男・花形敬。戦後から高度経済成長へと変貌を遂げる渋谷を舞台に、33年の短い生涯を全力で駆けぬけたこの破天荒なヤクザの生き様を描く。本田靖春のベストセラー『疵・花形敬とその時代』を映画化。花形敬は、相棒の松田と新興ヤクザ・安藤組が経営する渋谷興業の組員になる。妊娠した妻・美佐子がヤクザから足を洗うよう頼むが、花形は聞き入れなかった。
キャスト
豆知識
『疵』(きず)は、1988年に公開された陣内孝則主演、梶間俊一監督による日本映画。東映・ユピテル・コミュニケーションズ・インターナショナル製作提携、東映配給。
製作
梶間俊一は、深作欣二や伊藤俊也に就いた長い東映の契約助監督時代に、山口洋子の小説『情婦』に感銘を受け、1980年頃、自身で「ロッカバラード情婦」というシナリオを書き、会社に企画を提出した。『情婦』は横井英樹襲撃後の安藤昇を山口が匿う話で、イメージキャストは、安藤を沢田研二、山口を三原順子で、これが監督デビュー作になる予定だったが、岡田茂東映社長から「ポルノ映画にしろ」と指示されたため、「それは無理だ」と断った。もう東映では監督になれないと思っていたら、五月みどり主演のポルノ映画『悪女かまきり』(1983年)で監督デビューすることになった。「ロッカバラード情婦」の脚本で取材をしているとき、花形敬を知り、いつか花形を題材にした映画を作ってみたいと考えていた。監督二作目の1987年の『ちょうちん』がヒットしたことから、改めて『疵』の企画を持ち込んだが、登場人物が全て実在の人物で、そのほとんどが健在かつ、第一線で活躍している人も多く、映画化は難しかった。
『疵』が映画化されると伝わると、根津甚八、小林薫、松田優作など、多くの人気俳優が名乗りを上げた。陣内もその一人で、陣内は原作発表時の1982年に読み、花形の魅力に取り憑かれ、「オレならこう演じる」と思いをめぐらせていた。梶間が陣内に「『疵』をやるよ」と言ったら「僕も『疵』をやりたいです」と答え、陣内の抜擢が決まった。陣内は当時、テレビに映画に引っ張りだこの、最高に乗っている若手俳優であった。しかし、いざ待望の役がまわってきた時、「オレのキャラクターではないかもしれない」と迷った。また、二本続いたヤクザ映画の主人公とどのように違いを見せたらいいのか、周囲の期待は大きくプレッシャーになった。『ちょうちん』で映画俳優としてのスタンスを決め『極道渡世の素敵な面々』ではじけ『疵』では押さえた芝居に取り組んだ。撮影の合間に安藤を見つけては「今の芝居はどうでしょうか」と細かくチェックしてもらった。
原作は『疵/花形敬とその時代』であるが、シナリオハンティングには時間をかけ、花形の友人にも多くの取材を重ねた。その際に聞いた花形がやくざの一線にいた時、中学の同窓会に出席した原作にないエピソードなどを映画に取り入れた。取材中、花形を悪くいう人はいなかったという。
『疵』の時代は昭和30年代であるが、東京の中心にも捜せば昔を感じる風景が残っており、苦労してそれをつなげている。
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