疑惑

疑惑 (1982)

この秋 悪女の論理が あなたにしみる。

「砂の器」の名コンビである松本清張(原作・脚色)と野村芳太郎監督のコンビによる、推理サスペンス・ドラマ。桃井かおりと岩下志麻を主役に迎え、自動車事故で死亡した富山の財閥と、その夫人に着せられた保険金殺人の疑惑を辣腕女弁護士が解明してみせる。富豪の後妻に桃井かおりが扮し、その独特のエロキューションや、悪女と呼ばれる女のふてぶてしさ、可愛らしさを見事に表現。対する女弁護士には岩下志麻が扮し、終始毅然とした“理性の女”ぶりを発揮。そのクールな表情は、時としてホラー映画さながらの冷徹さを見せるほど。 この“理と情”のシンボルとも言えるふたりの女を、野村監督の演出は見事な対比で描いて見せ、事件の概要をも彼女らの言動を通して観客がすんなり理解出来るあたりの手腕はさすが。また桃井の後妻は過去に関する描写にウエイトを置いている一方、岩下の弁護士は離婚歴があり、夫側にいる娘とのやりとりを通してしか、「なぜ、彼女がそういう女になったか?」について言及していない、この描きわけが面白い。観客としては当然、桃井の悪女のほうに感情移入しがちなのだが、その彼女の窮状を救うのが、岩下の冷静な判断力と推理であるあたりの皮肉とカタルシスが、爽快な後味を与えている。ただし判決確定後、ふたりの女が交わす本音のやりとりは、両女優の演技合戦という意味も含めて、世の男性諸氏を恐怖のどん底にたたき落とすほどの壮絶さ。ご注意を。

公開日
1982-09-11
TMDB
7.0 / 10 (9)
上映時間(分)
2時間6分
ジャンル
犯罪, ドラマ, 謎
監督
野村芳太郎

キャスト

豆知識

『疑惑』(ぎわく)は、松本清張の推理小説。「昇る足音」の題で『オール讀物』1982年2月号に掲載され(掲載時の挿絵は濱野彰親)、改題の上、同年3月に文藝春秋から中篇「不運な名前」を併録して発刊された。

エピソード

製作発表は1982年7月9日、東京の帝国ホテルで行われたが、会見後には桃井かおり・岩下志麻と清張の対談が設定された。その後も清張は本映画のロケーションを見学し(『岡倉天心 その内なる敵』の取材を兼ねていた)、出演者と交流した。完成披露試写会は、9月8日に丸の内ピカデリーで行われた。

本作は、1974年に実際に発生した別府3億円保険金殺人事件をヒントに松本清張に小説を書いてもらい、それを原作に映画製作が決まった。映画の製作発表からまもなく、上記事件の被疑者Aから、原作者宛に手紙が来た。『疑惑』に書かれた内容は自分のことそのものであるとし、事件に関する意見を原作者に要求するものであったが、清張は事件は創作のヒントにしたにすぎないとして、関与を断った。

松本が完成させた小説の主役は男性新聞記者だったが、野村芳太郎は女同士がぶつかり合う物語を作りたいと考えた。また、原作の内容量もそのまま映画にするには尺が足りなかったため、野村は脚本(肩書きは撮影台本)の古田求に主人公を球磨子と律子の女性2人にした上で、内容も増やしてシナリオを書き直すよう指示した。岩下は後年、「松本清張先生の原作ミステリーの面白さに女同士の闘いという要素を入れたことが、本作が成功した大きな要因だと思います」と評している。

律子とお互いに本音をぶつけながら、球磨子が彼女の白い服にボトル入りの赤ワインをダラダラとかけるシーンは、元々台本になかった。これは、古田がアメリカ映画『愛と喝采の日々』で2人の女性ダンサーが本音をぶつけながらバッグで殴り合うシーンにヒントを得て野村に提案し、採用されたもの。このシーンで律子の服にワインをかける演出は、桃井のアイディア。桃井からこの案を聞いた岩下はワインの赤を引き立たせるため、元々用意されていた柄物の衣装から純白の服に替えてもらった。球磨子のこの行動に対し、岩下はグラスのワインを彼女の顔に勢いよくかけることで、2人の対照的な性格を際立たせた。本作の完成後、古田は野村から「律子と球磨子が本音をぶつけ合うあのシーンがあったから、この映画は締まった」との言葉をもらった。

桃井かおりは、球磨子役のオファーを受けた経緯を次のように語っている。「週刊誌的には私自身がわけもなく嫌われていて最悪な状態だったんで、「いまさらこの役をやる必要はないでしょ」と、うちの事務所は全員大反対(笑)。でも、(中略)等身大の桃井ネタは尽きたと思っていたので、いっそすごく嫌な人とかダメな人を少し作って演じてみたい、とにかく演じたいという気持ちが強かったんですね。球磨子のような人だと思われてこそ大成功くらいの気持ちで、思いっきりやってみようと思ったんです」。

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